03.「“受け入れられる喜び”を教えてくれる国」

 私とブラジルとの出会いのきっかけは,大学でポルトガル語を専攻したことです。大学受験を控えた高校時代,英語が好きだった私はもう一つ何か外国語を学びたいと考えていました。そんな折,地元でブラジルからの出稼ぎの人たちが増えているのを知り,将来何か手助けができるようになれれば,と選んだのがポルトガル語です。

 大学では,留学等でブラジルから帰国してくるクラスメイトや先輩方が,とにかくブラジルにとりつかれたようになって戻って来るのを目の当たりにして,一体ブラジルとはどういう国なのか??とにかく自分も実際に行ってみなくては!とこの研修制度に応募しました。
 ブラジルの魅力は,とにかくその寛容さにあると思います。もともと,好奇心旺盛な性格なので,とにかくいろいろな所に顔を出した一年間でしたが,この大きな国は,人もおおらか。思い切って飛び込んだら,誰もが受け入れてくれます。自分が受け入れられる,という感覚はとても心地よく,のびのびと,無理せずに自分らしく生きられた日々でした。 また,お世話になっていた研修先(日系ホテル)の経営者の女性をはじめとする,日系人の方々が,毎日真面目に忙しく立ち働いていた姿も印象的でした。今日の日本では,いかに楽をしてお金儲けをするか,というようなことが注目されているような気がします。けれど,苦労して,汗水たらして一日一日を頑張って生きて人生を切り開いていくことがとても大切で素敵なことなのだ,ということを,日本から遠く離れたところにいる日本人達から学びました。今でも,へこたれそうになったとき,ブラジルにいる彼女を思い,自分を奮い立たせています。

 帰国後は,幸運にもブラジルコーヒーの輸入卸の仕事に携わることができました。その後,この研修制度を通して知り合った主人との結婚,出産を経て,現在は3人の子供の世話に追われる毎日。ブラジルとの関わりは全くといってない日々です。
  けれど,ブラジルで経験した“自分が受け入れられる喜び”というのは,子育てをする上でもとても重要なことだな,と感じている毎日です。
  受け入れられる喜びを知れば,自分の事も,他人の事も大切にできる人間になるのではないでしょうか。それから,子供の幼稚園のお母さん方など,「ブラジルって名前だけは知ってるけど・・・???」とブラジルに対してほとんど関心のない人たちに,ブラジルのスイーツを作ってふるまったりして,身近なところから少しずつブラジル好きの輪を広めるのを密かな楽しみにしています。 また,高校の時から考えていた出稼ぎの人たちの手助けをしたいという気持ちは今でも変わりません。子供の教育という観点から,日本の学校に適応できずに悩んでいる出稼ぎの子供たちの問題がとても気になっています。自分がブラジル大好きになって戻ってきたように,彼らにとって,日本が少しでも暮らしやすいところになるよう,日本のことが好きになってくれるよう,子育てが落ち着いたら活動したいと考えています。 いつか,3人の子供たちのうちの一人くらいはこの研修制度でブラジルに行ってくれたらいいな,と思います。


伊藤 美奈子 Minako Ito

長野県出身。東京外国語大学外国語学部卒業(ポルトガル語専攻)。在学中の1998年に日本ブラジル交流協会18期生として,アラゴアス州マセイオ市マツバラホテルにて研修。帰国後は丸紅食料(株)に入社,ブラジルインスタントコーヒーの輸入販売に携わる。2005年に退社し,現在は専業主婦。

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